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スター・ウォーズ研究

スター・ウォーズ/メモリアル
スター・ウォーズ新三部作研究
「シスの復讐」ノベライズを読んで

北野武

スター・ウォーズ研究
「シスの復讐」ノベライズを読んで

 今日は一日心が塞いでいた。原因は分からなかった。心当たりがなかった。
 前日に私がしたことといえば、仕事をしたことと、一晩費やして「エピソード3 シスの復讐」のノベライズを読んだことだけだった。 スター・ウォーズのノベライズを読んだのは実はこれが初めてのことだった。私にとってスター・ウォーズ・ユニバースはジョージ・ルーカスによって創造されたシリーズ本編、その映像世界がすべてだ。文字で表されたスター・ウォーズは私にとってスター・ウォーズではない。ルーカス以外のライターの手によるスター・ウォーズの拡張世界を描いた小説にも全く興味がない。そういう意味では私はスター・ウォーズオタクでもなければマニアでもないのだろう。
 謎が多いという作品の性質上、スター・ウォーズは公開前、毎度ネタバレとの戦いを強いられる。ルーカスも以前、「映画を見る前にストーリーが分かっていたら楽しめない」といった発言をしていて、ネタバレに警鐘をならしていた。
 しかしインターネットが普及してしまった今日、情報を隠すことは困難で、ネット上では「シスの復讐」のネタバレ情報があふれている。インターネットを利用していればいやでもそういうネタバレ情報が目に付く。それでも私は抵抗し、映画公開前に決定的なストーリーだけは知らずにいようと頑張っていた。
 そこにノベライズの登場である。公開の何ヶ月も前に、ルーカス公認のもとでストーリーが公にされるのである。毎回新作の公開前にノベライズは発売されているわけで、これこそ最大のネタバレであり、公開前までストーリーを隠し続けるなど実はルーカスも意図していないのである。
 文字で表されたスター・ウォーズに全く興味がなかった私は、そのことに無頓着だった。そういうわけで小説版に興味がなかった私だったが、スター・ウォーズの最終章の物語をいち早く知りたいという誘惑には抗しがたかった。だいたいルーカスが認めてストーリーを公開するわけだし、映画と小説がべつもので、映像と音があってこそのスター・ウォーズであると考えれば、小説は小説と割り切ってしまえばいい。
 こうして「シスの復讐」のノベライズを手にとり、スター・ウォーズ最後の物語を私は読んだのだった。
 私は新三部作についての自分の見解を以前に書いたことがあるが、読んでみての感想は、その見解がほぼ的中しているように思われることだ。詳しくは私の過去の日記を読んでもらえばいいが「スター・ウォーズ新三部作研究序説」、私はそのなかで、新三部作は陽画の旧三部作に対する陰画として暗くなるべく宿命づけられていると述べていたのだが、新三部作の最終章にきて、その暗い物語はここに極まっている。私の心が塞いでいたのもどうやらこの物語を読んだせいのようで、それほど「シスの復讐」は暗く救いのない物語なのだ。
 ルーカスは共和国の崩壊、悪の台頭、アナキンの堕落、ジェダイの滅亡を粘り強く描いているとも私は書いたが、ルーカスが「ファントムメナス」「クローンの攻撃」で綿密に張り巡らしてきた複線が最終章にきていよいよ効果を発揮し、共和国の崩壊、悪の台頭、アナキンの堕落、ジェダイの滅亡といったできごとが、「シスの復讐」のなかで急激ながら、見事な展開で描きつくされる。本当に見事な、見事な展開による、…悲劇だ。
 私は新三部作で描かれるアナキンの転落が悲惨であればあるほど、旧三部作の救いと贖罪の物語も深い意味を帯びてくるとも書いた。「シスの復讐」で描かれるアナキン・スカイウォーカーの悲惨な末路は、私の予想にたがわず、全く救いがない。
 ルーカスは、「新三部作で描かれる物語で、旧三部作がまったくちがった作品にみえてくる」というような趣旨の発言をしているが、確かに「シスの復讐」の救いのない物語をみせられた後では、旧三部作もいままでのようにお気軽には観られなくなるだろう。陽画の旧三部作に対する陰画であるところの新三部作は「シスの復讐」において見事に完結する。
 むろんこれは公開前の小説版の話で、映画本編ではかなりストーリーもはしょられるだろうし、またストーリーはよくても、最終的にはそれがどのように映像化され展開されていくのかに映画の成功がかかっていることはいうまでもない。その点では監督としてのルーカスの手腕を信じたいところだ。
 私の気分が塞いでいたのは、やはりこの「シスの復讐」の物語を読んだせいのようだ。感じやすかった子供のころはともかく大人になってからこういう感覚を覚えるのは珍しいが、どうもそれが真相らしい。
 それほど「シスの復讐」は暗く救いのない物語なのだ…。(2005/04/09)




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