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映画コラム

 

スター・ウォーズ研究

スター・ウォーズ/メモリアル
スター・ウォーズ新三部作研究
「シスの復讐」ノベライズを読んで

北野武

クリント・イーストウッド
許されざる者

  いまや名監督・名優の地位をきずいたイーストウッドも、娯楽映画・暴力映画の三流役者か監督だと偏見をもたれていた時期があった。
  若くしてTVドラマの世界で認められるものの、その後なかずとばずのイーストウッドは、セルジオ・レオーネに呼ばれイタリアに渡る。そこで、ハリウッドの西部劇とはかけはなれた泥臭く血なまぐさい、いわゆるマカロニ・ウェスタンに出演する。
  マカロニ・ウェスタン自体が西部劇モドキであるのに加え、彼が出演した「荒野の用心棒」は黒澤明監督の名作「用心棒」を無断でリメイクしたいわばパクリ映画だった。
  ここにみられるのは典型的なハリウッド俳優のおちぶれた姿だったが、彼の「荒野の用心棒」やその他のマカロニ・ウェスタンは世界中でヒットし、それとともにイーストウッドも国際的なスターとなる。
  マカロニ・ウェスタンにはそれまでのハリウッドの西部劇にはないリアリズムがあった。登場人物はとにかく一癖もふた癖もある人物ばかり、人を撃てば血が飛び散るし、まとっている服も泥まみれ。それまでアメリカ産の西部劇を愛してきた映画ファンが、眉をひそめるような描写の連続だったが、それは反面人間の真実を描いたゆえのことでもあった。
  外国産の暴力映画で有名になったイタリアがえりのイーストウッドは、アメリカに戻ってきてもアウトローであり続けた。ハリウッドに戻ってきた彼はB級映画の監督として認知されていたドン・シーゲルと組んだ。ドン・シーゲルもまた、ハリウッド映画の様式美とは異質の、泥臭い人間像と、リアルな暴力描写を撮る監督だった。
  ドン・シーゲルとのコンビで、イーストウッドは「ダーティ・ハリー」という生涯の当たり役を得て、スターとしての地位を不動のものとする。しかし作品としの評価は同時期に公開された、同じ暴力刑事を描きながらアカデミー賞の作品賞まで獲った「フレンチコネクション」に比べ、不当に低いものだった。
 「ダ―ティハリー」の成功は彼をスターダムに押し上げるとともに、暴力映画の俳優、B級映画の役者というイメージをより強いものにする。
  暴力をリアルに描こうとすれば血なまぐさくなり、人間をリアルに描こうとすれば泥臭くなる。しかしそれはある種の“良識”ある人々からは嫌われる。
  彼がアメリカのとある市の市長に当選したときも、それら“良識派”はあのイーストウッドがとバカにした。
  しかし彼はそんな“良識派”の自分への偏見をしりめに、セルジオ・レオーネやドン・シーゲルといった監督たちから映画づくりのノウハウを学び、確実に監督としての実力をあげていった。
  その蓄積は、イーストウッドがある脚本に出会ったことによって花開くことになる。それが映画「許されざる者」の脚本だった。彼はその脚本を読んで喜んだ、まさに自分のために用意されていたような脚本だと。
 いまは引退したが、かつては人殺しもいとわない凄腕の大悪党であった初老の男が、自分を立ち直らせてくれた亡き妻の残した子供たちをたべさせるために、娼婦に暴力をふるった男たちを殺す賞金稼ぎの旅に出る。その途中で彼は衰えた自分の姿と向き合ったり、再び暴力をふるうことへの葛藤を感じたり、暴力が生み出す悪しき連鎖のために友を失ったりしつつ、かつての凄腕の悪党だったころのカンを取り戻し、賞金稼ぎ以上に暴力をかさにきり、彼の友人を殺した真の悪党である保安官と対決する。
 この話をイーストウッドはレオーネやシーゲルから学んだリアリズムと、スターとして長年培ってきた娯楽映画づくりのノウハウを使い、非常に巧みに演出してみせた。
 リアルな暴力を描いた映画に出続けてきたからこそ暴力というものの真の痛みを描くこともでき、泥臭い役を演じてきたからこそ人物をより深くリアルに描くこともできた。
 映画の主人公と同じく初老を迎えていたイーストウッドは、 自らの映画人生を振り返り総括するかのごとき作品にであいながら、それまでの自らへの偏見をすべてひっくりかえすような素晴らしい作品をつくってみせた。作品は高く評価され、彼とは無縁のもののように思われたオスカーも彼はついに手に入れることができた。彼はこの成功が、自分ひとりの力によるものだけではないことも知っていた。その証拠に「許されざる者」は、セルジオ・レオーネとドン・シーゲルの二人の偉大な監督に捧げられていた。
  この作品以降、イーストウッドは映画とはなにかをしった巧みのように、娯楽性と芸術性と社会性が加味された名作を、それこそ立て続けにつくっていく。そしていまや彼は、アカデミー賞の常連として作品がノミネートされても、誰も不思議に思うものはいない、名実ともに押しも押されぬ名監督としての地位をきずきあげたのだった。



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